中村栄一教授、ACS Cope Scholar Award受賞

 当GCOEの拠点リーダーである中村栄一教授(理学系研究科・化学専攻)が、2010年のアメリカ化学会賞(2010 Arthur C. Cope Scholar Award)を受賞することになりました。同賞は有機化学分野において卓越した業績を挙げた研究者から、30代2名・40代4名・50代4名に贈られることになっています。過去24年間の受賞者にはK. B. Sharpless, R. H. Grubbs, R. R. Schrockといったノーベル賞受賞者も含まれ、日本人では正宗悟(MIT), 岸義人(ハーバード大), 尾島巌(ニューヨーク州立大), 福山透(ライス大), 野依良治(名古屋大), 柴崎正勝(東京大), 小林修(東京大), 山本嘉則(東北大), 林民生(京都大)の諸先生がこの賞を受けています(括弧内は受賞当時の所属)。


中村栄一教授

 中村教授の研究分野は極めて幅広く、有機金属を活用した反応開発、量子力学計算をベースとした反応機構の解明、フラーレンナノチューブなどナノカーボンの化学などで、分野を先導する多くの実績を挙げています。近年ではこれらのベースを生かした高機能材料開発にも力を入れ、先日紹介したフラーレンを用いる太陽電池や、構造を大幅に簡素化できる有機EL素子といった有望な新素材を次々に発表しています。

 また2007年には、カーボンナノチューブの中に有機分子を閉じ込め、その動きを電子顕微鏡で観測することにも成功しました(論文はこちら動画はこちら)。1分子の動きをリアルタイムで観察することに成功したのは世界でも初めてです。
 これまで我々化学者は、化合物を観測する際にはあくまで「分子の集団」を相手にしており、多数の統計あるいは平均値としてデータを追っているに過ぎませんでした。いってみれば、これまでは群衆の動きを観察するしかなかったものが、ひとりひとりの顔や個性を追いかけることができるようになったということで、化学者の夢の一つを実現した仕事といえます。

 今回の受賞は、これらの成果が評価されてのものです。こうした成果が生まれてくる背景にあるのは、中村教授の化学に対する深い洞察と、研究室の高いアクティビティにあるといえそうです。中村研からはこれからも面白い研究が次々に登場しそうですので、当ブログでも今後機会を見てこれらの成果を順次紹介してゆきたいと思います。ぜひご期待下さい。