第8回ZESTYネットワークセミナー

 11日、第8回ZESTY ネットワークセミナーが開かれました(当セミナーについて詳細はこちら)。今までは理学部本館5階講堂にて開催されていましたが、現在工事中であるため、今回より小柴ホールでの開催となりました。
 今回の演者は無機化学研究室(西原研究室)の博士研究員Koya Prabhakara Rao博士と、
天然物化学教室(橘研究室)の福沢世傑助教でした。

 Rao博士はインドのJawaharlal Nehru Centre for Advanced Scientific Researchで学位を取得し、日本へやってきたポスドク研究員です。今回の講演はインド時代に取り組んだ亜硫酸イオンと金属の成すネットワークの構造解析、さらにその空孔への水素取り込みに関する研究に関するものでした。水素はクリーンな燃料として期待されますが、気体であるため貯蔵・運搬が難しく、吸蔵材料の研究は近年大きな注目を集めるジャンルです。


講演中のRao博士

 福沢助教の講演は、遺伝子組み換えと有機合成技術を組み合わせ、タンパク質に直接C-C結合を形成するというテーマでした。通常のフェニルアラニンの代わりに、遺伝子技術によってp-ヨードフェニルアラニンをタンパク質に組み込み、ここにパラジウム触媒によるカップリング反応で置換基を結合させるというものです。
タンパク質に望みの官能基を導入する技術は生物学分野からのニーズが高いのですが、今のところどんな場合にも対応できる手法はありません。パラジウムによるクロスカップリングを活用するこの手法は応用範囲が広そうで、今後に期待が持たれます。



福沢助教

 2件の口頭発表の後には、ポスターセッションが行われました。今回の発表は3件でした。違うジャンルの研究を見ながら自由に話し合える貴重な時間であり、さらに活発な議論が期待されます。

今回のキーワード:水素貯蔵

 先日のエントリでも述べたように、水素は環境を汚染する廃棄物を出さない、クリーンなエネルギー源として期待される。しかし水素は最も軽い気体であり、同じ熱量を発するガソリンに比べて3000倍近いスペースを必要とする(常温、1気圧)。そこで、様々な水素貯蔵材料が検討されている。

 パラジウムは、圧力をかけると水素を「吸い込み」、体積の1000倍近い水素ガスを吸蔵することができる。ただしパラジウムは重く高価な金属であるので、自動車などに搭載するには向かない。またマグネシウムやチタンなどの合金の一部には水素吸蔵能力があるものが知られており、こちらも盛んに研究が進められている。今回の金属亜硫酸化合物は結晶に隙間があり、ここに水素を取り込むタイプである。また、水にわずかなテトラヒドロフラン(THF)を添加したものも、結晶構造の隙間に水素を取り込むことが知られている。

 その他、水素を含む化合物から、化学反応によって水素を取り出す方法もある。例えば、デカリンなどは白金触媒存在下で水素を放出してナフタレンとなる。この反応は可逆であるため、水素吸蔵材料として有用ではないかと見られる(有機ハイドライド)。この他、アンモニア-ボラン錯体・水素化ホウ素ナトリウムなどといった各種化合物が検討されている。ただし、現在のところそれぞれ一長一短があり、今のところ決定版は存在しない。今後の研究の進展が期待される分野である。