若手レクチャーシッププログラム

 当拠点では、着任から4年目以降の若手教員を対象とした「若手海外レクチャーシッププログラム」を実施しています。これは、1〜2週間ほどかけて世界トップレベルの研究機関数カ所を巡りつつ自らの研究成果を講演し、多くの研究者とディスカッションを行うというものです。
 日本の研究者はどちらかといえば内に閉じこもりがちであり、若手研究者が名を上げる機会が少ない傾向にあります。海外をめぐって一流研究者と議論を戦わせることで、こうした壁を破り、情報交換・人脈の構築・知名度の向上・コミュニケーション能力の向上といった成果が期待されます。いわば、かつて剣豪が諸国を巡って強い剣客と立ち合い、腕を磨いた「武者修行」の現代版です。
この制度は2007年度に始まり、これまでに14名が受賞していますが、既にその中から5名が他研究機関へ栄転し、うち2名は海外(韓国・シンガポール)へ招かれて移籍を果たすなど、大きな成果を挙げています。

2009年度前期は、佐藤宗太助教(工学系研究科応用化学専攻・藤田誠研究室)と、山下恭弘准教授(理学系研究科化学専攻・小林修研究室)のお二人がレクチャーシップ賞を受賞しています。
ということで今回、佐藤助教に話を伺いました。佐藤助教の研究分野は、自己組織化によって集合する球状錯体分子の化学です。これは藤田研で長らく取り組んできたテーマであり、内部に取り込んだ分子の反応性などの研究が主でした。最近では生体分子の包接や集合など、新たな応用にもトライしているとのことです。



佐藤宗太助教

佐藤助教はカナダの5大学への講演旅行を行っています。行き先としてカナダを選んだのは、氏がかつて学生時代に留学した先である、アルバータ大のJ. Stryker教授にホスト役をお願いし、他大学の研究者を紹介してもらったためとのことです。このように、行き先の選定から相手方との交渉に至るまでを、受賞者本人がこなすことになっており、これもまた「武者修行」の一環となっています。



研究テーマである球状錯体分子の一例

佐藤助教は6月26日から7月6日にかけて、ビクトリア大・ブリティッシュコロンビア大・サイモンフレーザー大・カルガリー大・アルバータ大の5大学で6回の講演を行っています。物理に近い人から生物寄りの研究者まで、様々な分野の相手と英語でディスカッションをするわけですからずいぶん大変そうですが、佐藤助教は「慣れているので」と軽くこなしてきたようです。



ビクトリア大の研究者とランチタイムの図。

講演後の質疑では、錯体の安定性、その測定方法、カプセルと分子の相互作用、分子生物学方面への応用など様々な質問が飛び交います。こうした議論を通じ、相手に成果を知ってもらうことはもちろん、自分の研究に関する新たな気づき、再発見も少なからずあったということです。また、共同研究の申し入れなど、直接的な効果もすでに得られています。

 レクチャーシッププログラム受賞者は、「幅広い人脈形成に役立った」「自分の研究や名前が知られることの重要性がわかった」「日本と海外の研究環境を比べることができ、今後の研究に生かすことが多くあった」と口を揃えます。研究の日常を抜け出し、海外講演旅行という環境に身を置いて得られるものは極めて多いようです。