プレゼンあいうえお 〜尾嶋正治教授〜

 さて先日のエントリで紹介した尾嶋正治教授ですが、教育方針に関するお話がまたとても面白かったので、こちらに別記事としてまとめさせていただきたいと思います。



尾嶋教授

 尾嶋教授はホームページプロフィールに「趣味は学生に奨励賞を取らせること」と書くほど、プレゼンの指導に力を入れておられます。素晴らしい研究をするのが第一ではありますが、それを人々に正しく伝えられなければ評価は得られません。尾嶋教授はこのプレゼンのキモを5か条にまとめ、学生に叩き込んでいるのだそうです。雑誌「化学」にも載った、「プレゼンあいうえお」は以下の通りです。


 あ……アイコンタクト、自信演出、誠実に!
 い……一番乗りで、会場検分、四股を踏む!
 う……うしろから、大きなPower Point よく見える!
 え……笑顔をつくって、緊張解消!
 お……大きな声で、腹の底から はっきりと!


 詳細は「化学」2008年4月号の記事に譲りますが、ポイントをしっかり絞って5点にまとめ、「あいうえお」の覚えやすい5か条にまとめてあるのが素晴らしいところと思います。確かに大きな読みやすい字でスライドを作り、大きな声で自信たっぷりにしゃべってくれれば、たいていの講演は上手く聞こえます(これがなかなかできないことではあるのですが)。しかし、尾嶋教授は記事の中で、「最も大事なのは中味で、プレゼン自体は半分以下。質疑応答をきちんとやるのが大事」と述べておられ、質疑応答の練習に重点をおいて指導しているそうです。
「い」の「四股を踏む」ってのは何だと思われそうですが、地面を踏みしめ、筋肉をストレッチすることで気合いが行き渡るという効果があり、かのイチローも実践しているそうです。研究者は頭脳、精神面にばかり気が回りがちですが、こうして肉体面から自分を見直すのも大変重要です。

こうした指導の結果、尾嶋研の学生さんの学会賞受賞は50件にも上るそうです。こまごまとあれこれを指摘するのでなく、こうして覚えやすく実行しやすいルーティンに落とし込むやり方は、指導する立場の人は大いに参考にすべきではないでしょうか。



尾嶋研理念さしすせそ。きちんと頭韻を踏んでいるところがポイント。

 この他尾嶋研には「安全かきくけこ」「尾嶋研理念さしすせそ」など、いくつもの標語が壁に貼られている他、優秀な論文を出した者からカラオケ大会で優勝した者に至るまで賞状を発行し、顕彰したりもしています。「小さな成功をさせて、すかさず褒める」ことは学生の不安を取り除く特効薬とのことで、聞いていて感じ入った次第です。



廊下に張り出された尾嶋賞の賞状。

 尾嶋教授はテニスや野球、剣道もこなすスポーツマンですが、昨年アキレス腱断裂の大けがを負って、好きなスポーツをあきらめなければならないかと落ち込んだ時期があったそうです。しかし尾嶋教授はそのリハビリの励みに、足首の曲がる角度を毎日測定し、回復度合いを測ることを思いつきました。こうして綿密にデータを取って解析した結果、「回復速度は未回復割合に比例する微分方程式で表せ、1次の化学反応および逐次反応である」という結果をはじき出し、医者を驚嘆させたということです。転んでもただでは起きず、けがさえ研究の対象にしてしまう。これこそ研究魂、研究者たるものかくあらねばならないと思った次第です。