PNAを「つっかい棒」にする

前述のようにPNAは、相補的な配列を持つDNAと強く結合してハイブリッド二重鎖を形成し、これはDNA二重鎖に比べても安定です。つまり、適当な配列を持った2本のPNAを二重鎖DNAと混合すると、PNAはDNAの二重鎖をほどいて割り込み、つっかい棒のように二重らせんを押し広げることになります。PNA同士が二重鎖を作ってしまわないのかと思いますが、特殊な人工核酸塩基を使用することでこれを防いでいます。そうして二重鎖をほどいたところにセリウムを作用させれば、DNA鎖を首尾よく切断できることになります。


セリウムによる二重鎖の切断

PNAの合成は、パーツをアミド結合でつなぐだけですので極めて簡単であり、好きなだけの長さに伸ばすこともできます。つまり、適当な長さと配列を持つPNAを用意することで、自由な長さの塩基配列を認識し、その周囲で切断することが可能になったのです。例えば16塩基の長さを持つPNAを用いれば、この配列は4^16、つまり約43億分の1の確率でしか出現しませんから、30億塩基対のヒトDNAの中からほぼ間違いなく狙った箇所だけを切断できることになります。
しかもセリウムによる切断は、糖部分を破壊するような「汚い」切れ方ではなく、制限酵素と同じようにリン酸エステル結合をきれいに切断します。このため、切れた断片はDNA鎖伸長など次の操作にそのまま使えますので、これは大きなメリットです。今後、バイオテクノロジー研究や医薬品生産などにも応用が進みそうです。
(Nature Protocolに掲載の論文はこちら