ノーベル賞・フィールズ賞受賞者による事業仕分けに対する緊急声明

 本日、理学部1号館小柴ホールにて、「ノーベル賞フィールズ賞受賞者による事業仕分けに対する緊急声明と科学技術予算をめぐる緊急討論会」が行われました。出席したのは小林誠(2008年ノーベル物理学賞)・野依良治(2001年ノーベル化学賞)・森重文(1990年フィールズ賞)・利根川進(1987年ノーベル医学・生理学賞)・江崎玲於奈(1973年ノーベル物理学賞)の各氏、そして発起人となった石井紫郎東大名誉教授です。進行中の「業務仕分け」で科学技術関連の予算が次々削減を受けたことに対し、トップレベルの科学者が集結し、声明を行いました(声明文はこちら)。

 ここでは出席者6名による談話を掲載いたします。
小林誠
スーパーコンピュータの話題が多く取り上げられるが、科学全体の問題である。鳩山政権は科学技術で世界をリードするという政策を掲げていたはずだが、その方向との整合性はどうなるのか理解しがたい。

野依良治
 鳩山氏は、先端技術・人材育成で世界をリードすると述べた。工学部出身で博士号を持つ初の首相に、大いに期待している。
21世紀にはどの国も一国では生きていけない。世界と協調していくことが必要だ。科学技術は資源のない日本の唯一の生きる道である。普通の国ではだめで、抜きん出た国であることが必要だ。国際競争のためでもあるがそれだけではなく、国際貢献できる力が日本には必要だ。
 仕分け作業について、公開の場で議論を行うことは評価したい。しかし短期的な費用対効果のみを考えるのは不見識であろう。

森重文
 私は政府のイノベーション創出プロジェクトに関わっているが、これは結局「人を育てる」「ブレイクスルーの芽を育てる」の2点に集約される。そしてそれを支えるのは、大学運営費・交付金である。競争的資金は、芽が出てからの話だ。本当に芽が出るまでは何が育つかわからず、広く多くの種に機会を与えなければならない。
 科研費は平等・厳正な審査の下に運営されている優れた制度だ。ただし、少人数に巨額の資金を与える制度には反対で、将来の芽のため広くチャンスを与えるべきだろう。

利根川進
オバマ大統領は、就任直後アメリカ科学アカデミーで演説した。これはリンカーン以来2度目のことだ。そして彼は、経済状態が悪いからこそ科学は重要であり、科学関連予算をGDPの0.8%から3%に引き上げる考えを示した。科学はエリートの贅沢ではない。個々の研究はハイリスクだが、全体としてみればハイリターンだと述べていた。
 これに比べると今回の事業仕分けは別世界のようだ。スーパーコンピュータの議論で、世界一になる必要はあるのか、2位ではだめなのかという発言があったが、1位を目指さなければ2位にも3位にもなれない。そうした切磋琢磨によって、科学は進んでいくものだ。

江崎玲於奈
科学技術立国という言葉を信じてきた者にとって、今回の事態は非常なショックだ。ただし、我々が考え直すよいチャンスをくれたともいえる。
「科学」と「技術」は全く異なるものだが、日本語では曖昧に使われている。技術ははるか昔からアリ、19世紀から発達した科学がそれを裏打ちした。科学知識とはそれが生まれること自体に価値があり、役立つかどうかではない。逆に技術とは、役に立たねば意味のないものだ。
日本では明治から科学を取り入れたが、技術を評価して科学はやや軽視されてきた。このため技術は一流だが科学は決して一流ではない(全ノーベル賞受賞者のうち、日本人は2%に過ぎない)。今回は「科学」という文化をしっかり国民目線から考え直す大きなチャンスであり、それを推し進めるのは科学コミュニティの大きな責任であろう。

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科学者にとり、今回の事業仕分けは大きな衝撃ですが、同時に多くを考えさせるきっかけともなってくれました。こうした動きが今後建設的な議論を呼び、よい方向に事態が動いていくことを期待します。