第10回ZESTYセミナー

 第10回ZESTYセミナー

 6月2日、化学本館5階講堂にて、ZESTYセミナーが開催されました。このセミナーでは毎回ひとつのテーマに沿った発表者2名を選んで講演を行っており、今回は「Chemistry for Electronics」がテーマとして掲げられました。発表者は工学系研究科応用化学専攻・尾嶋研究室の小林篤博士(PD)、理学系研究科化学専攻・中村研究室の三津井親彦君(D3)の2名。発光材料の開発というテーマは同様ながら、小林博士は無機材料によるLED、三津井君は有機分子を用いた有機エレクトロルミネッセンス有機EL)材料という異なったアプローチであり、両者を対比させることでそれぞれの特色が見えてくるという興味深いセッションとなりました(ちなみに司会・講演・質疑応答まで、全て英語で行われます)。


司会者より、両者の研究の位置づけについて紹介。

 LEDは各色に発光するものが実用化されており、多くは13族元素(Al・Ga・Inなど)と15族元素(N・P・Asなど)の組み合わせによる半導体がベースになっています。しかし多くの努力にもかかわらず、緑色に発光する材料はいまだ難しいのが現状です(グリーンギャップ)。赤はAlGaP、青はGaNなどによって優れたLEDやレーザーが実現していますから、緑に光る材料さえ手に入れば三原色が揃い、大いに応用範囲が広がるはずです。このため、青色発光ダイオードの開発で有名な中村修二教授を含め、現在各方面で熱い研究競争が進められています。


グリーンギャップ

 小林博士のグループでは、InGaN(窒化インジウムガリウム)が緑色発光材料として有望であり、ZnO(酸化亜鉛)の基板上にこれを成長させることで明るく緑に光ることを見出しました。こうした結晶成長およびその解析は尾嶋研究室の最も得意とするところであり、今後の展開に大きな期待が持たれます。


講演する小林博士

 一方、三津井君の研究する有機ELは英語ではOLED(Organic Light-Emitting Diode)とも呼ばれるように、基本的には無機材料によるLEDと同じ原理で発光します。ただし電子の与え手・受け取り手として、各種の有機化合物を用いるという点で異なります。


各色に発光する有機EL材料の開発に成功

この有機化合物をいかに設計し、いかに合成するかがポイントですが、三津井君らはベンゾジフランと呼ばれる骨格を持つ化合物が極めて優れていることを見出しました。今まではよい合成法がなかったのですが、亜鉛を用いることによって効率よくこの構造を作り出す方法を見つけたのがポイントとなりました。


見出された化合物の一つ、CZBDF

 単純に、自分の作り出した物質が「光る」というのは、非常な感動があることと思います。そしていずれの研究も、エネルギー効率に優れた新たな光源として、近い将来に我々の生活を大きく変える可能性を秘めています。今後の研究の展開に、大いに期待したいところです。