テロメアの化学

こうした「テロメアの化学」は、どう役に立つ可能性があるのでしょうか?ひとつには、ガンの新たな治療法に結びつく可能性があります。前述の通り、多くのガン細胞はテロメラーゼによって短くなったテロメアを伸長することで、いくらでも増殖できるように変異しています。そこで、これらのテロメア形成技術と、前回述べたDNA鎖切断法などを組み合わせ、ガン細胞のテロメアを特異的に切断・破壊してしまえば、ガン細胞はそれ以上増殖できなくなるはずです。小宮山研ではすでにこの手法でガン細胞を死滅させることに成功しており、副作用の少ないガン治療への道が拓かれ始めています。


グアニンリッチなDNA鎖とセリウムを組み合わせ、テロメアを切断する(J. Am. Chem. Soc. 2009

Blackburn・Greider・Szostakらに対してノーベル医学・生理学賞が与えられたことでもわかる通り、今までのテロメア研究は主に生物学分野側からのものでした。これに対して小宮山研究室の手法は、テロメアを「分子」として捉え、原子のレベルでその化学反応を追いかけるというアプローチです。こうした手段から今後何が生まれ、何が見つかるか。進展を続ける「テロメアの化学」は、核酸のサイエンスに今後も新たなステージを切り開いていくことになりそうです。