テロメアの謎を追う

テロメア研究に対しては今年ノーベル賞が出されましたが、その謎解きがすっかり終わったわけではありません。分子レベルでテロメアの構造を読み解いて行くべく、小宮山研では徐岩特任助教を中心にパワフルに研究を進めています。


徐岩特任助教

例えば小宮山研では、テロメア部分にはG-quadruplexと呼ばれる独特の環状グアニン4量体が繰り返し現れ、串団子のようにつながった4重鎖構造が形成されていることを、AFM(原子間力顕微鏡)を用いて初めて発見しています。DNAといえば2重らせんというのが常識ですが、末端にはこんな構造も存在しているのです。



G-quadruplex。金属イオンを取り込み、グアニンが4つ環状に水素結合した独特の4重鎖構造。
(Bioorg. Med. Chem. 2006. Nature Protocols 2007.


連続的に4重鎖構造を形成する高次構造(Angew. Chem., Int. Ed. 2009.


        
また、テロメアは前述のように細胞分裂の鍵を握っていますが、それ自身はDNA末端の分解を防ぐための単なる構造物であると思われていました。ところが最近になり、このテロメアDNAがRNAに転写されているという意外な事実が明らかになりました。生体が伊達や酔狂で「RNAテロメア」を作っているはずはないと考えられ、何らかの生物学的機能を担う可能性が指摘されています。
小宮山研では現在、この謎に挑み始めています。すでに、RNAテロメアは通常のDNAテロメア同様G-quadruplex構造を形成することを、世界で初めて突き止めています。

ヒトテロメアRNA4重鎖構造(J. Am. Chem. Soc. 2008.


最近では、DNAとRNAのハイブリッドテロメアも、同様な構造をとることを確認することにも成功しました。DNAとRNAを単純に混ぜたのでは、DNA -DNAのペア、RNA-RNAのペアなどもできてしまって分離が難しくなります。徐岩助教らは「クリックケミストリー」と呼ばれる反応を活用し、DNA とRNAを混ぜたときだけ両者が結合するようにしてこの問題を乗り越えました。これらの研究は、Nature asia materials誌やAngewandte Chemie誌で重要トピックに選ばれるなど、世界の先端を行くものです。

ヒトテロメアDNAとRNA分子がハイブリッド4重鎖構造(Angew. Chem. Int. Ed. 2009.