阿修羅結合

 ところが、川島研で今回合成された化合物は、驚いたことに極めて安定であり、水や空気に触れてもびくともせず、100度以上での煮沸や、室温でブチルリチウムを作用させるといった過激な条件にさえ耐え抜きます。
 この新規なケイ素-ケイ素結合に対し、川島研究室では「阿修羅結合」の名を与えました。学術的なネーミングにはいろいろと制約も多いため、いっそのことなじみやすい名前を――と考えての命名だそうです。2つのケイ素から出ている8本の結合の腕を阿修羅の8本の手足に見立て、反応性・吸光特性・電子放出特性という3つの特徴を、阿修羅の持つ3つの顔になぞらえたとのことです。反発し合う負電荷同士による「異形の結合」に、ふさわしいネーミングという気がします。


(「阿修羅結合」分子モデル。灰色は炭素、黄緑色はフッ素、赤が酸素、黄色がケイ素。阿修羅像の写真はWikipediaより)

 では切れそうで切れないこの強さの秘密は何であるのか、今回は狩野准教授・合成を担当した三宅秀明さん(D3)にお話を伺いました。


狩野直和准教授(左)と三宅秀明さん(右)。手前は阿修羅結合の分子モデル。