テロメアとガン

この「DNAのしっぽ」は、実のところ生物の運命を考える上で大変重要です。それはこのテロメアが、細胞増殖制御の鍵を握る存在であるからです。細胞分裂のたびにDNAは複製されますが、テロメア部分は全てはコピーされず、少しずつ短くなっていきます。テロメアが限度以下に短くなってしまえば、それ以上細胞は分裂できません(ヘイフリック限界)。つまりテロメアが細胞の分裂回数を決め、ひいては生物の寿命にも大きな影響を与えていると考えられるのです。

しかし現実には、このヘイフリック限界を超えていつまでも分裂し続ける細胞があります。端的にいえば、無制限に増殖するガン細胞がその例です。例えば研究用に用いられるHeLa細胞は、1951年に子宮頸ガンで亡くなった女性から採取されたガン細胞ですが、今でも世界中の研究室で分裂増殖を繰り返しています。
この謎を解いたのがC. W. GreiderとE. H. Blackburnらです。二人は、短くなっていくテロメアを伸ばす働きを持つ酵素「テロメラーゼ」を見つけ出し、この功績によって今年のノーベル医学生理学賞を受賞しました。 通常テロメラーゼは生殖細胞など特殊な細胞でのみ発現していますが、ガン細胞はこの酵素を「悪用」し、テロメアを延ばすことで自らを延命しているというわけです。実際、ガン細胞の9割でこのテロメラーゼが発現していると見られています。
逆に言えば、テロメラーゼはガン細胞にとってのアキレス腱になりえます。テロメラーゼは正常細胞ではほとんど発現していませんから、テロメラーゼの働きをブロックすることで、副作用の少ない優れたガン治療が実現する可能性があります。