制限酵素とは

 現在各分野でDNAの研究・応用が花盛りなのはご存じの通りです。この隆盛に、「制限酵素」が果たした役回りの大きさは計り知れません。制限酵素はDNAの4〜6塩基配列を認識し、その場所で二重鎖を切断します。制限酵素には多種多様なものが知られており、それぞれに認識する塩基配列が異なります。これらを使い分けることにより、さまざまな場所でDNAを切断し、別の配列とつなぎ替えるといった操作が可能になりました。現代分子生物学の進展は、制限酵素の存在なしではあり得なかったといっていいでしょう。


制限酵素。中心にDNAを取り込み、二重鎖を引きはがすようにして切断する。

 とはいえ制限酵素には、いくつかの制約もつきまといます。まず制限酵素によって切断できる配列には限りがあることが挙げられます。今まで数百種類の制限酵素が知られていますが、それぞれ切断できる配列は決まっており、任意の配列を指定して切るということはできません。
また、核酸塩基はアデニン(A)・チミン(T)・シトシン(C)・グアニン(G)の4種類しかなく、制限酵素は6塩基対までしか認識できないため、切断する場所の選択性が必ずしも十分ではありません。例えば、よく用いられる大腸菌制限酵素EcoRIは「GAATTC」という配列を認識して切断しますが、この配列は遺伝子中に4の6乗、すなわち4096塩基対に1カ所の割合で現れることになります。ヒトDNAは30億の塩基対から成りますから、単純計算でGAATTCの配列を73万カ所ほど含む計算です。何も考えずに制限酵素を作用させれば、遺伝子はズダズダにされてしまいます。
もっと長い配列を認識できる「制限酵素」を人工的に作り出せれば、もっと様々なニーズに応えられるはずです。しかしDNAというのは非常に丈夫な物質ですので、これを切断するというのは実はそう簡単ではありません。2000万年前の琥珀の中に閉じ込められたクモのDNAが取り出されたという、映画「ジュラシック・パーク」を思わせる研究も現実にあるほどです。強引に切ろうとすると、DNAの鎖ごと破壊されてしまうことにもなりかねません。