研究の今後

 こうした研究がいったいどう役に立つのか?という質問はよくなされるところです。こうしたケイ素をたくさんつないでいくことで、新たな物性が期待できるかもしれない、あるいは高密度の枝分かれを持った新規物質の創製につながるかもしれない――といったことしか現段階ではいえません。
 この研究の価値は、身近な元素であるケイ素の本質に迫り、その新しい面を引き出したというところに求められるかと思います。すぐに役立ちそうな何かを作り出したというのではなく、未知の領域へ向かう大きな橋を架けたというべきでしょう。
 新しい橋の先には何があるのか、今はまだわかりません。すぐには何もなくとも、数十年後に他の発見と結びついて、大きな成果を生み出すこともあり得ます。サイエンスを豊かにするには、目先に囚われないこうした基礎研究も不可欠であり、これこそが理学部の役割であるともいえます。
 現在川島研ではケイ素以外の元素にも適用を図るなど、橋を「広げる」研究も着々と進められています。次はどんなものが見つかるのか、楽しみに待ちたいと思います。


(注1)ケイ素同士の反発が強ければ結合距離は長くなるはずですが、この化合物のケイ素間距離は2.3647オングストロームと、通常のケイ素-ケイ素単結合の長さとさほど変わりません。このことは後に理論計算によっても裏付けられ、負電荷はケイ素に隣接する炭素・酸素に分散していることがわかっています。